米澤穂信『ボトルネック』 自分の存在価値を考えたことはありますか? あれば読んで欲しい本
「あれ、俺ってなんで生きてるんだっけ?」
月に一度くらい、こうした憂鬱に駆られて部屋で奇声を上げています。
こんにちは、「ハンパ人間」の赤崎です。
タイトルにもありましたが、みなさんはどうですか。長い人生を生きる中、一度くらいは考えたことあるんじゃないでしょうか。
学校やアルバイト、仕事。友人、家族、恋人、etc……。あらゆる場面に、悩みの種は潜んでいます。
そうした場所でうまくできない自分に嫌気が差し、自身の価値を疑うループに。
ほんと、どうしようもないですね。
さて、もしここまでの文章に共感してくれる奇特な方がいらっしゃいましたら、この先の文章も読んでいってください。
僕がひどく心動かされた「小説」を紹介します。
タイトルは『ボトルネック』
1.『ボトルネック』とは
作者は「米澤穂信」さん。アニメ化もされた人気作品『氷菓』を執筆された作家さんです。
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。
ジャンルとしては、ミステリーSF、みたいな感じでしょうか。
「自分が生まれなかった世界はどうなっている?」
そんなパラレルワールドに足を踏み入れてしまう主人公のお話です。
*以下ネタバレ注意!!
2.自分がいない方が、幸せな人が多い世界
主人公の名前は「嵯峨野リョウ」。この小説は彼の「ぼく」という一人称で語られています。
さて、あらすじの通り、彼は自分の世界には存在していなかった「姉」、「嵯峨野サキ」と自宅で遭遇します。いくつかの問答の末、二人は両者の世界の違いを探しはじめることに。
そして物語が進むにつれ、浮き彫りになっていく世界のズレ。
リョウの世界では閉まってしまったアクセサリ屋が残っていたり、倒れてしまったうどん屋の店主が生きていたり、極めつけは、もとの世界でリョウの彼女だった「諏訪ノゾミ」が生きていたこと。
一つ一つの事実を受け入れる中で、主人公は物語の終盤であることを悟ります。
『自分の存在が、ボトルネックである』ということに。
作中では、ボトルネックの説明を以下のようにしています。
【ボトルネック】
瓶の首は細くなっていて、水の流れを妨げる。
そこからシステム全体の効率を上げる場合の妨げになる部分のことを、ボトルネックと呼ぶ。
全体の向上のためには、まずボトルネックを排除しなければならない。
二人の世界の間違い探しをする中で、リョウは「自分の存在こそが間違いである」と結論づけます。
リョウの頭に渦巻くのは、「まずボトルネックを排除しなければならない」の一文。
絶望に飲み込まれた彼の口から出た言葉は、「もう生きていたくない」の一言でした。
そしてその一言を待っていたかのように、リョウは自分の世界へと戻ります。
波が打ち付ける、東尋坊の崖の上へと。
3.それでも生きるか
崖の上で彼は恐怖に震えます。
そこにあるのは、失意に身を任せすべてを諦めるか、絶望のまま続けるかの二者択一。
リョウの下した決断は……。
これを最初に読んだとき、僕は異様に興奮しました。
これほどまでに自分の価値を考えさせられること、「君に存在価値はあるか?」と問いかけられることはなかったのです。
自分の行為が誰かを不幸に陥れていると自覚してもなお、自分は生き続けることができるだろうか。
生きる希望が湧き出るなんてことはありませんが、木の陰に隠れた仲間を見つけたような気分になれる作品です。
興味を持っていただけた方は、ぜひ一読を。